2022年08月10日

インド・ラジャスタン~壮大な砿山を目の当たりにして~

インド大陸への訪問

8月、インド北西部ラジャスタン州を訪れた。州都はジャイプール。非常に大きな街で人口も300万人を数える。

インドはだいたいどこにいっても薄茶色のイメージの中にあるのだが、この地もそうだった。石屋の間では、名の知れた土地で、インドの有名な砂岩や石灰岩は、多くがこの周辺で採れる。もちろん、石の産地に囲まれているだけあって、旧市街も石の建物が多い。ヒンズー教、仏教、イスラム教が入り混じり、エキゾチックともいえる建造物が混沌の中に佇んでいる。 

 

この日は、砿山を巡るため、まだ夜が明けぬうちに宿を出た。車の中はとても寒く毛布に身を包みながら郊外のデコボコ道を行く。しばらくして朝もやが大地を紫色に染める頃、小さな村の雑貨店で一休み。小さなプラスチックの容器に注がれた熱いチャイで目が覚めた。間もなく太陽のまぶしい光がバラックの中に差し込んだ。 

 

5時間ほど走り、古都ブーンディへ。紫色の街並みが日の光を浴びて美しい。背後の山にある石造りの宮殿のような建物が一層この景色を壮大なものにしている。インドは、至る所の山々に城壁があり、その土地土地のマハラジャが治めてきたのだが、この地もそうである。 

 

広大な採石場

緑の木々が覆い茂る山々を走り抜け、さらに2時間。周りは人けのない平たんな草原が続く。ただ、そこには白い石のブロックらしきものが所々に捨てるように置かれている。この辺りは、砂岩の採石場なのだ。 

地下を掘り進めて砂岩の大きなブロックを採取している。この辺りには、多種多様の砿山が点在する。採れる砂岩の種類は数えきれない。価値があるのは、いろいろな加工に耐えうる大きなブロックサイズで、小さなものは、無造作に捨てられていた。 

この捨てられている石が、何とも魅力的な造形を兼ね備えており、造園家の目にはとても興味深く映る。しかしこの魅力は、インド人には理解が難しいようだ。 

人けの無い平原に無造作に捨て置かれたインド砂岩

人けの無い平原に無造作に捨て置かれた砂岩

インド現地の職人が手割で製品に加工する。

現地の職人が手割で製品に加工する

 

砂岩の砿山からさらに数時間。ようやく目指すコタに到着した。

コタはダムもある大きな川のほとりにある街で、ライムストーンの出荷基地になっている。この地から出荷されるので、コタブルー、コタブラウンと呼ばれているのだ。 

 

あたりは既に夕闇が迫っていたが、片言の英語をしゃべるドライバーと今日の宿を探し、大きな川の近くのまだ新しくできたばかりのホテルに泊まることにした。夜はビール!と思うところだが、インドの人たちは基本的にお酒を飲まない。それは宗教的な側面も強いと思うのだが・・・

酒場は常に「暗黒の部屋で」という不思議な文化が存在するのである。このホテルでも、最上階のほぼ真っ暗な部屋に入りビールを味わうことになった。出てくるのはキングフィッシャー。冷えていないことが多いのだが、この日のビールはとても冷えていて美味であった 

 

翌朝、コタブルーの砿山を目指した。ブラウンの砿山も見たかったのだが、コタからは逆方向になり、かなり遠い。今回はブルーのみで諦めることにした。 

 

例によって、砿山に近づけば近づくほど、石の置き場や工場が車窓を飾るようになる。そして、工場ばかりが集まっている細い路地に入ったかと思うと、ここで車が停止した。ついに砿山に到着したのだ。 

 

車から出て、土手のようなところを登っていく。 

 

四つん這いになりながらも登り終わった瞬間、ふと見上げると・・・そこは、もう別世界だった。 

自分の想像をはるかに上回る、圧倒的なスケールの砿山を目の当たりにし、暫く言葉を失った。 

圧倒的なスケールを誇るコタブルーのクオリー(採石場)

 

これだけの規模の砿山を目にするのはもちろん初めてである。 

はるか彼方まで、コタブルーを採掘している砿山が続いている。その先は、霞がかったように天空に消えていくのである。 

 

多くの人と車両があちこちで動いているのだが、米粒のように小さい。 

 

感動のあまり、カメラのシャッターを切りまくる。別に、目の前の景色が逃げていく訳ではないのだが、とにかく見たこともない風景を記録に残そうと思ったのである。 

本来、ここは立ち入り禁止区域で、撮影もご法度のようであったが、どうやら日本からのバイヤーが来たということで、許されたようだ。少しホッとして我に戻る。 

 

遠くはかすんで見えないが、石の1つ1つが板石状に切り出されているのがわかる。 

インド砿山

大地の恵み、コタブルー

コタブルーは石灰岩であるが、青い色が大変美しい。ガーデン用には不向きと思われるが、建築用途で特にフランス・ドイツでは人気だと聞いている。産出量は多いものの、その色の独特さゆえ、市場価格は他の石灰岩と比べ高値で取引されている 

インド産石灰岩コタブルー敷石、石畳の施工例

コタブルー敷石、石畳の施工例

 

コタブルーは堆積岩で、岩盤は板状に剥離が可能である。御影石ではそうとはいかないのだが、このラジャスタン州では砂岩や石灰岩など、平滑に割ることができる岩盤が多く、その石で街ができているといっても過言ではない。まさに、大地の恵みであり、その石を産出して世界中に出荷することで、この地域が潤っているのである。 

 

この石は、ブルーグレーの天然の割れ面がとても美しい。日本では、ブラウンの方が人気があるのだが、ブルーはとても都会的でクールな色調が特徴のためか、とてもおしゃれなエクステリアを作りたい方が要望されることが多い 

 

インドは、南は御影石、北は砂岩・石灰岩の大地で出来ている。南では、山から石を切り出すのだが、北では地中から掘ることになる。これも、石の成り立ちが異なることからであるのだが、コタブルーは堆積岩のため、地面下で採取作業が進められており、青い水たまりがとても印象に残った。 

 

ただ、見えているのはそのごく一部。 砿山の規模は、この10倍以上とのことだ。日々すさまじい量が産出され、世界中で使われているのである。まさに、想像を絶する規模である 

 

話を聞くと、この砿山もまだ採掘がはじまって15年あまりと日が浅いとのこと。既に想像を超えているが、今後も、どんどん採掘が進められ、その分、この青い「池」も拡がっていくのだろうと思う。 

 

この場を去るのが名残惜しい。後ろ髪をひかれながらも、この広大な大地を後にした。  

石の出るところに人が集まり街ができる。そして、それが各地に渡り、人の暮らしに潤いを与えている。人は自然と共に生きている! これまでも、そして、これからも! 

 

文:秦野 利基

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